音狂時代⑱ 「売れなかったけど伝説」①キャプテン・ビーフハート(前編)

音狂時代(新:世界の音楽)
11 /28 2014
今回から新シリーズで、
発売当時は注目を集めることはなかったけど、
後世になってから高い評価を得たり、
大きな影響を与えてきたグループやミュージシャン、
あるいは、有名でヒット曲もあるグループやミュージシャンの作品で、
発売当時は注目されなかったけど、
今にしてみれば名盤というアルバムなどを取り上げていこうと思います。

特に、バンドをやっている人なんかには、
是非知っておいてもらいたいものを取り上げていきますので、
興味が湧いたら、自分でも手にとって聴いてみて下さい。

さて、第1回は、永遠の「ワン アンド オンリー」
牛心隊長こと、キャプテン・ビーフハートです。
capt_beefheart.jpg
本名:ドン・ヴァン・ヴリード(1941~2010)

1967年「Safe as Milk」でレコードデビュー1992年までに12枚のアルバムを製作。
全てが傑作というわけではないですが、
彼のブルージーな味のあるボーカルに破壊的な不調和と、
煌くような美しさが渾然一体となった、
まさに「不調和の美」としかいいようがない音楽世界が、
特に「超名盤」と後に評されるアルバムには刻印されています。
牛心隊長の場合、後のオルタナ系のバンドへの影響は指摘されますし、
そもそも再評価の機運が高まったのも、それらの傾向の先駆者としてでもありますが、
何よりも、私が素晴らしいとおもうのは、
「牛心隊長の音楽は牛心隊長にしかできない」ところです。
一見、誰でも出来るようなテキトーな演奏や
雑な投げつけるような歌い方に聴こえるかも知れません。
しかし、何度も聴き返していくと、「そこにしかない世界」みたいなものに気付きます。
言い換えれば、そんだけ聞き込まないと見えてこないものですから、
「ラジオでかかって、ヒットチャート上昇」なんてことにはならないわけで、
そりゃ売れるわけもないということになります。
(もちろん、牛心隊長にしては「売れセン」っぽい曲もあることはあります)

後世のおいて最も評価が高く。
「孤高の名盤」として激賞されているのが、
1969年の三作目「Trout Mask Replica」です。
Trout_Mask_Replica.png
このアルバムジャケットも秀逸。
かぶっているのはホンマモンの鯉
(残念ながらマスではない)
牛心隊長ご本人が被っておられます。

一日12時間、八ヶ月のリハーサルを経て、
たった4日間(バックトラックだけだと6時間)で製作された、
準備日には入念に時間をかけ、レコーディングの演奏はほぼ一発録りという、
製作過程そのものが一種の奇跡のようなアルバムです。

牛心隊長の頭の中から湧き出してくる音を、そのイメージどおりに演奏するためには、
これだけの準備が必要であり、そしてその情念をレコードに収めるためには、
十分にリハーサルを積んだ上での一発録音しかなかったということでしょう。

それまでの2枚のアルバムでは、プロデューサー主導で、
牛心隊長の思い描く音楽を盤に表すことは出来ていなかったのに対し、
本作をプロデュースしたフランク・ザッパ(牛心隊長の高校の同級生でもあった)は、
牛心隊長制約のない自由な環境で音楽制作に取り組めるようにしました。
その環境の整え方と、ザッパ一流の製作能力が、この名盤を産んだとも言えます。
(フランク・ザッパについては、どんだけ語っても語りつくせないほどの
作品と価値があるので、別の機会に必ず書きます)


TMR.jpg


このアルバム製作過程の面白い逸話としては、
8ヶ月のリハーサル期間、バンドメンバーは共同生活を強制されていて、
その経費の少なさから、食事が貧弱で、
窮したメンバーが食品を万引きして逮捕されたほどだったというのがあります。
また、このアルバムの曲を作るにあたって、
牛心隊長は、今まで「演奏したことのない」ピアノで作曲を行い、
しかも音楽理論に精通していたわけでもないので、
不協和音、不整調、リズムの破壊なんて当たり前、
とにかく本能の赴くままに音を紡ぎだしていって、それをメンバーが採譜することで、
演奏にこぎつけていきました。ただし、牛心隊長以外のメンバーはアドリブ禁止
あくまで彼の頭の中から出てきた音をへんてこであれなんであれ演奏させられました。

通常、音楽を作る人というのは、聴き手の耳に届けるという前提で作成します。
もちろん、現代音楽などの非営利的な芸術分野ではそうではないし、
この当時、1960年代にはオーネット・コールマンなどジャズミュージシャンも、
フリー・ジャズという表現者主体の音楽に向かっていました。
しかし、芸術表現よりも「いかに売れるか?」が幅をきかしている大衆音楽において、
これだけチャレンジな音楽を作り出したのは、1969年段階では数えるほどしかありません。
しかも、この「トラウト・マスク・レプリカ」では、それが完全に達成されています。
ここにあるのは決して心地の良い音楽ではありません。
牛心隊長の唸るようなボーカルと、整合性をどっかに置いてきぼりにした不調和な演奏。
しかし、その音は耳と頭に、不快として響くだけではありません。
牛心隊長の頭の中を覗き込むような、
人の深層心理に音を介して向き合っているような緊張
を感じさせます。
そして、最終的には、牛心隊長の時代を超えた発信と、
聴き手の受信がシンクロすることでいいようのない快感
につながっていきます。
(ここまで達するには、長い時間が必要です)

私とて、これを最初に聞いた20代前半のときに思ったのは
「何じゃこりゃ!」でした。最後まで集中して聞き続けることも困難でした。
しかし、何度も繰り返し、延々掛け続けることで、
次第に、この不調和の心地よさを感じるようになっていきました。

tmrband.jpg

収録時間、78分51秒。
当時として異例の2枚組みアルバム制限可能時間限界まで音を詰め込んでいます。
恐らく、牛心隊長の頭にはそれ以上の音が詰まっていたのでしょうが、
それを限界一杯まで表現した作品。
「どの曲が」と切り出せるアルバムでもないので、
全曲収録した動画を貼っておきます。
多分、勉強のBGMにはならないし、安眠の妨げにもなるので、
集中して聴く時間を作るのは難しいかも知れませんが、
是非、通して聴く機会を作ってみてください。
そして、少しでも気になったら、是非CDを購入し
何年も時間をかけてつきあって見てください。
そこに巷に氾濫する「売る為の耳に優しい音楽」にはない
「ナニモノカ」を見つけることができるでしょう。




「ポップ・ミュージックの歴史において、
音楽以外の領域で活動する芸術家たちにも理解し得る、
芸術作品として見なすことが出来る音楽作品が存在するとしたら、
おそらく『トラウト・マスク・レプリカ』がそのような作品である」(ジョン・ピール)


この作品一枚だけでは、キャプテン・ビーフハートを語ったことにはならないので、
来週、続編で他の作品についてもみてみましょう。

携帯・スマホからアクセスされている方は、12454290046821m.gif
アクセスカウンターをクリックして頂くようお願いします

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

gotama

K-POPグループSECRET(シクリ)、SONAMOO(ソナム)の動向、オリックス・バファローズの応援を中心に、色んな趣味、雑学などを日々徒然に書き込んでいきます。原則毎日更新です。
2017年2月1日より自営業者になりました。